大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)263号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(一) 本件口頭弁論の全趣旨によれば、本願考案の平板屋根は陸屋根に属することが認められ、また成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、陸屋根とは、屋根面が水平又はそれに近い屋根を意味するものと認められる。

原告は、本願考案は、人の行動に支障のない強度と平面性を備える平板陸屋根であると主張する。

しかしながら、本願考案は、実用新案登録請求の範囲記載のとおり、「左右両側を溝形に彎曲した一枚の単位屋根板1から成り、一方の溝形彎曲部2の上端に突条3・4を折曲形成して、両突条3・4間に嵌合頸部5を設け、溝形彎曲部2より稍々小形の他の溝形彎曲部6は隣位に位置させる単位屋根板1の溝形彎曲部2に設けた突状4が係合する係合凹溝7を外面に形成した平板屋根」を要旨とすることは当事者間に争いがなく、人の行動に支障のない強度と平面性を備えることについては、その実用新案登録請求の範囲に特定されていないのみならず、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願考案の明細書の考案の詳細な説明には、本願考案がそのような強度と平面性を備えることの記載はなく、人の行動に支障がないことを期待できるような示唆すらなされていないことが認められるから、本願考案を原告主張のような人の行動に支障のない強度と平面性を備える平板陸屋根に限定することはできない。

ところで、成立に争いのない乙第二号証の一ないし三によれば、引用例記載の考案は、屋根板の両側に彎曲形成したチヤンネルA及びBを設け、このA及びB間を直上部2、平面部1、斜上り面部4で連続させた葺き屋根であることが認められるから、直上部を有するところからみて瓦棒葺き屋根に属し、本願考案のような陸屋根には属しないというべきである。

しかしながら、本願考案と引用例記載の考案とは、その構成からして単位屋根板の両側にある接合手段において対比されるべきものであり、この点については、溝形彎曲部に関する原告の主張を検討したうえで判断する。

(二) 前掲甲第二号証によれば、本願考案において、大小の彎曲部2・6は、いずれも溝形に彎曲して形成されており、これが漏水、雨水の受溝としての機能を有するものと認められるが、一方前掲乙第二号証の一ないし三によれば、引用例記載の考案も、チヤンネルA・Bは、それぞれ折曲され、断面逆M形類似又は逆M形の形状で彎曲して形成されていることが認められるから、それ相応の排水機能を備えているものと認められる。

原告は、本願考案は、彎曲部を単純な溝形としたことにより雨水等の排水を円滑にする作用効果を奏するものであり、チヤンネルを逆M形という特異な断面形状とした引用例記載の考案とは排水機能において顕著な差異がある旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本願考案の明細書には、第1図、第2図の実施例においては溝形彎曲部を逆台形状に形成したもの、第3図の実施例においては溝形彎曲部を半円弧状に形成したものが示されているが、実用新案登録請求の範囲において溝形彎曲部の形状を格別単純な溝形に限定する記載はなく、もとより、実施例の図面に示された形状に限定されるとする根拠は存しないのみならず、「溝形彎曲部の形状は図示実施例のものに限らない」(第三頁第三行、第四行)と記載されていることが認められるから、本願考案における溝形彎曲部は引用例記載の考案におけるチヤンネルA・Bと同一の形状のものを含むものであり、また前掲甲第二号証によれば、本願考案の明細書には、排水機能がどの程度のものであり、そのために溝の形状をどのように特定する必要があるかについては何ら記載されていないことが認められるから、本願考案における溝形彎曲部を断面逆台形状又は半円弧状のものに限定してその排水機能を論ずるのは相当でない。もつとも、前述のとおり、本願考案は陸屋根に属し、引用例記載の考案は瓦棒葺き屋根に属することから、その排水機能に差異があると考えられないではないが、この点についても、本願考案と引用例記載の考案とは、単位屋根板の接合手段において対比されるべきである。

また、単位屋根板を屋根枠に取付ける手段については、前掲乙第二号証の一ないし三によれば、引用例記載の考案は、「逆M形チヤンネルBの中央山形部7頂上ならびにコの字形チヤンネル11に釘8を挿通して、野地板、もや等の屋根枠に釘止めによつて止めつけ」(第二頁第一五行ないし第一八行)るものであることが認められる。しかしながら、本願考案の溝形彎曲部に断面が引用例記載の考案におけるような逆M形の形状のものを含むことは、前述のとおりであり、また、本願考案においては、単位屋根板を屋根枠にどのようにして取付けるかについては実用新案登録請求の範囲に何らの特定もされていないから、本願考案の明細書の実施例に記載されたものが溝形彎曲部での釘打ちをしないものであるからといつて、このことを理由に本願考案と引用例記載の考案との溝形彎曲部が異なるものとすることはできない。

(三) 本願考案の平板屋根が陸屋根に属し、引用例記載の屋根が瓦棒葺き屋根に属すること、また、単位屋根板において、本願考案が平板としたのに対し、引用例記載の考案が直上部、平面部、斜上り面部で連続した葺き屋根とした点で両者が相違していることは、前述のとおりである。

しかしながら、屋根面を水平状にした平板屋根が周知であることは、当事者間に争いがなく、また陸屋根においても排水構造が必要であることは、屋根が雨水等から建物内の人間や物品を守ることを主要な機能の一つとする以上、当然のことである。

そうであれば、本願考案のように、単位屋根板を、その両側の接合手段により接合して屋根を構成するに当たり、その接合手段として、両側に設けた大小の溝形彎曲部の嵌合手段を採用すれば、これらの溝形彎曲部に排水機能が期待されることは当然のことであつて、そのことは引用例記載の考案において同様の接合手段を採用する以上、当然期待されるところであり、両側の溝形彎曲部間が本願考案のように平板状であろうと、引用例記載の考案のように平板状でなかろうと排水機能を期待されることは同一である。

そして、成立に争いのない乙第三号証によれば、昭和三年実用新案出願公告第三〇九四号公報は、陸屋根構材と母屋との結合組成材に関する考案に係るものであるところ、単位屋根板として平板なものが用いられていることが認められ、かつ、陸屋根において平板状のものを用いることは、本願考案の出願当時周知であることは当事者間に争いがないから、本願考案のように屋根板の両側の溝形彎曲部間を平板状にすることは設計上の微差にすぎないというべく、また、この溝形彎曲部に排水機能が期待される以上、その機能をどの程度のものとするかは、単純な設計的事項にすぎないから、全体として、本願考案と引用例記載の考案とは、実質的に同一とするのが相当である。

(四) 以上の理由により、本願考案は引用例記載の考案と同一と認められるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

左右両側を溝形に彎曲した一枚の単位屋根板1から成り、一方の溝形彎曲部2の上端に突条3・4を折曲形成して、両突条3・4間に嵌合頸部5を設け、溝形彎曲部2より稍々小形の他の溝形彎曲部6は隣位に位置させる単位屋根板1の溝形彎曲部2に設けた突条4が係合する係合凹溝7を外面に形成した平板屋根。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

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